2008年10月13日

キャッチボール

空気の澄んだ

心地よい日曜日の昼下がり、

僕は本を片手に近所の公園に行った。

ベンチに腰をかけてゆっくりと上を見上げれば、

木に茂る葉の間からは

秋の穏やかな太陽が顔をだしていた。

時折、葉が風に揺れるから、

光は小さな水晶のようにキラキラとまばたきして、

優しく僕とベンチを照らしている。

外で本を読むなんて初めてのことだけど、

これからは時々やるのもいいかもなあ、

なんて思ったりした。

しばらくの間、深呼吸をしたり

身体を伸ばしたりして、

さて、そろそろ本を読もうかなと思ったその時、

視界に僕と同じくらいの年齢の男性と

5歳くらいの男の子の歩く姿が入ってきた。

二人はやがて公園の中央まで来て、

少し会話を交わし、

それからキャッチボールをはじめた。

男の子はまだ球をしっかりと投げることができず、

ほとんどの球が転がってしまうのだが、

男性は微笑みながらその球を拾い、

そして男の子に優しく投げ返している。

……幸せそうだなあ。

きっと親子なんだろうな……。

あの男の子も大きくなったら、

子供とキャッチボールをするのかもしれないなあ……。

そんなことを思いながら僕は煙草に火をつけて、

目の前の煙を眺めるふりをしながらチラチラと

二人の様子を眺めていた。

やがて煙草を吸い終え、本を開こうとしたその時、

突然、僕は男性の顔に見覚えがあると感じた。

……?

気のせいじゃない。

どこかで見たことがある……。

誰だったかな?

確かに知っているはずなんだ……。

僕は本を横に置いて、

目を閉じ、

必死に思いだそうとした。

それからしばらくして、

真っ暗な記憶の細いトンネルを潜っているうちに、

やがて僕は一つの景色に辿り着いた。

……夕暮れの校庭で笑いながら僕に球を投げる男の子の姿。

それは小学生の時、

よく一緒にキャッチボールをしていた◯◯君だった。

自信はないけど、

視線の先にいるその男性は

◯◯君の成長した姿だと言われれば、

そのように見える……。

……◯◯君は小学校三年生の時に

僕のいる学校に転校してきた。

◯◯君の家は僕の家と近く、

また◯◯君は明るく大雑把な性格でもあったので、

内気な僕ともすぐに仲良くなった。

それは僕にとって初めての親友だった。

僕は室内で遊ぶことを好んだが、

◯◯君は外で遊ぶことを好んだ。

◯◯君は何かと僕を外へと連れ出すのだが、

運動音痴な僕のせいで遊びの選択は限られ、

最終的に残ったものはキャッチボールだけだった。

◯◯君と僕のキャッチボールは五年生になるまで続いた。

なぜ五年生で終わってしまったかというと、

◯◯君が他の学校に転校したからだ。

転校することが決まってからの僕たちは、

毎日暗くなるまでキャッチボールをした。

「ねえ、引っ越す場所は遠いの?」

「知らない!」

「またキャッチボールできるかな?」

「できると思う!」

だが、◯◯君が転校したあと、

僕たちが会うことはなかった。

……もしこの男性が◯◯君だとしたら、

一体僕はどんな声をかけるべきなんだろう?

僕たちの間に流れてしまった時間は

あまりにも長かったから……。

そんなことを考えていた時、

子供の取り損ねた球が僕の方へと転がってきた。

僕はベンチから立ち上がり、

球を拾って子供へ投げた。

球を受け取った子供はペコリと頭を下げ、

その背後から男性が僕に声を投げかけた。

「どうも、ありがとうございます!」

僕の心配をよそに、

その声や笑顔は◯◯君とは全く違うものだった。

………………………。

僕はベンチに座り、煙草に火をつけた。

そしてキャッチボールを続ける目の前の二人を見ながらこう思った。

◯◯君はきっと今でも誰かとキャッチボールしているだろうな、と。

それは会社の同僚かもしれないし、

新しい友達かもしれないし、

恋人かもしれないし、

目の前の男性のように自分の息子とかもしれない……。

僕の視線の先には、

上手に球をキャッチできたことが嬉しいのだろう、

子供が楽しそうに笑っている姿と、

それを喜ぶ父親の姿があった。

僕はフと、

◯◯君とはじめてキャッチボールをした日のことを

思いだした……。

「僕、キャッチボールなんてしたことないよ……」

「大丈夫だよ!とって投げるだけだよ!」

「……それ、楽しいの?」

「みんな楽しいって言ってるぞ!」

「……みんなって誰?」

「ええっとね……俺のオヤジとか……」

…………………………。

あの頃の僕たちの

キャッチボールは、

誰かから誰かへと

今も引き継がれている。






























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2008年09月14日

波のひとつ

新宿で用事を終え、

帰るための電車に乗って揺られていると、

暖かい夕暮れの日差しのせいもあり、

ウトウトと眠ってしまった。

目を開けば見慣れない景色が車窓を過ぎていくから、

どうやら僕は乗り過ごしてしまったらしい。

だけど僕はあわてもせずに、

このままどこまでも行ってみようなんて思ったりした。

最近の僕はとても疲れていた。

もともと心はそんなに強いほうではないけれど、

それよりも色々なことに疲れてしまったんだ。

僕が死んだとしても

それはとても小さいことだ、とか

近頃はよく考える………。

僕はまた目を閉じて、

電車に揺られながら、

何もかもがどうでもいいと思った。

………………………………。

終点の八王子に電車が到着したとき、

僕はなぜか海が見たいと思った。

なぜ海なのかはわからない。

でも、どこかに行くとすれば

それはやはり海だった。

僕は財布の中身を確認して、

それからフと頭に浮かんだ『茅ヶ崎』を目指すことにした。

『茅ヶ崎』………。

僕は何を期待しているんだろう?

………………………………。

何度か電車を乗り換え、

茅ヶ崎に着くころには

辺りはすっかり暗くなっていた。

改札を抜けると

気のせいか少し潮風の匂いがした。

海が近い、と思った。

電灯の灯る正面の真っ直ぐな道路を

僕は道沿いに歩くことにした。

落ち着こうと思ってタバコに火を点けてみても、

意志に反して僕の足は自然と速度を増した。

もうすぐ海だ。

どうやら僕は少しだけ興奮しているらしい。

だけど頭の片隅でこうも思った。

………海に行って何がある?と。

もし仮にそこに何かがあったとしても、

僕の毎日は何一つ変わらないだろう。

きっと相変わらずだ。

………そんなことはわかっている。

だけど意志に反して、

僕の身体は海を見たがっていた。

海でなければ駄目だった。

………………………………。

ところどころに汗をかき、

息が切れてきたころ、

道は行き止まりになった。

耳を澄ませば、

柵の向こうから波の音が聴こえてくる。

僕はゴクリと喉を鳴らして、

それからゆっくりと柵をよけ、

向こう側へと歩いた。

………そして、

やがて僕の目には広大な黒が広がった。

………海だ。

夜の海は激しい黒いうねりだった。

遠くを見ても真っ暗なために水平線が見えず、

空と海を隔てるものがそこにはなかった。

近くに目を落とせば波がしぶきをあげるから、

僕はこの広大な黒を海だと認識できるのだった。

しばらく、

僕はそこに立ちつくしていた。

その間、絶えず波は砂浜を打ち続けた。

力強く、躍動的に。

瞬間に生まれ、

そして瞬間に消えるその波は、

よく見れば同じ形のものなど一つもなく、

そのどれもがわずかだが個性を持ち、

どれもが素晴しい音色で砂浜を打った………。

それからどれくらいそこに立っていただろうか?

僕はこの景色を見ながら

フとこんなことを思った………。

僕の存在は

きっとこの波の一つのようなものだろう、と。

存在したことさえ疑わしいほどの瞬間の運動。

少し時がたてば誰の記憶にも残らないほどのわずかな個性。

きっと僕はそんなものだ。

だけどそれでも………

波は素晴しい。

波は美しい。

そのことが僕に勇気を与えるのだった………。

身体の熱がおさまり、

風が少しだけ肌寒くなってきた。

もう秋なんだ。

夏よりも僕に向いているはずの季節がやってきた。

きっと素晴しい日々が僕を待っているはずだ………

なんてね………。

さてと、

帰ろうかな。








































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2008年07月21日

さよならじゃない

三連休の初日の土曜日、

楽しそうに通り過ぎる子供達を尻目に、

僕は埼玉でガードマンの仕事に励んでいた。

燃える太陽の下、

暑さは体力を容赦なく奪っていく。

止めどない汗が視界をさえぎり、

立っているのもやっとの状態だ。

そんな朝に小さな事件が起こった。

ガンジーさんがトラックを誘導中に、

足をタイヤで踏まれてしまったのだ。

幸運にも大した怪我などなく、

痛みもそこまでないらしいが、

大事をとってガンジーさんは早退して病院に行くことになった。

「ごめんね……。一人にさせちゃって……」

ガンジーさんは子犬のような瞳で

悲しそうに僕にそう言うと、

トボトボと病院に向かった。

事故は小さなものだったが、

騒ぎは大きなものになってしまった。

事故が起きた瞬間、

僕は心配よりも先に、

「何やってるんですか!」

とガンジーさんに叫んでしまった。

暑さのせいか、僕はめずらしくイライラしていたみたいだ。

やがて僕の声を聞いた人達が集まってきた。

ガンジーさんは、

「大丈夫。大丈夫」

と周囲の人達に微笑んでいた……。

結局その日、

僕は一人で昼食を食べ、

一人で夕方まで働いた。

もともとは二人でやっとこなせる現場だ。

僕はクタクタに疲れてしまった。

……次の日、

現場にガンジーさんの姿はなかった。

会社に電話をしてみたところ、

「悪いけど、とりあえず今日までは一人でやってくれないかな?」

とのことだった。

ガンジーさんの説明については何もなかった。

僕は電話を終えた後、

ため息を吐き、

一人で働くつらさを思い、肩を落とした。

……午前が過ぎ、

昼食を終え、

事務所にゴミの入った袋を持って行こうとしている僕の背後から、

不意に現場の監督者が声をかけてきた。

「あのさ、キミちょっといいかな?」

監督者は額に流れる汗を拭いていた。

「あのさ……昨日、弁当のゴミを分別してなかったでしょ?

 ダメだよ。ちゃんとしないと。

 それに、最後の掃除も昨日はしなかったでしょ?

 いつものようにちゃんとやらないと……」

僕は事態が呑み込めずに

「はあ……」

と、とりあえず答えた。

監督者がいなくなった後、

僕は分別するために

ゴミの入った袋を開けながら考えていた。

僕はいつも弁当を食べた後、

ゴミをそのまま袋に入れて、

その場所に置いたまま

喫煙所へと向かっていた。

ガンジーさんがいつも

「僕のといっしょに捨てておくから、置いといていいよ」

と言ってくれたからだ。

しかし、昨日はガンジーさんがいないから、

自分で袋にまとめたゴミを事務所に持って行って捨てた。

だが、それで分別が出来ていないというのなら、

……今まではガンジーさんが、

僕のゴミの袋を開けて、

分別してから捨ててくれていたということか?

それに僕は最後の掃除なんてものを知らなかった。

いつも僕は労働時間を終えれば、

喫煙所で煙草を吸い、

それから着替えて帰宅していた。

ということは、

今までは僕が煙草を吸っている間に、

ガンジーさんが一人で掃除をしてくれていたということか?

僕はゴミを分別しながら、

ガンジーさんが事故を起こした昨日、

もっと優しい言葉をかけるべきだったと後悔し、

そして明日、会った時にあやまろうと思った……。

……それから次の日の今日、

また現場にはガンジーさんの姿はなかった……。

僕は嫌な予感を感じつつ、会社に電話をした。

何度かコールした後、

もしもし、という相手に対して僕はこう言った。

「あの……◯◯ですけど、今日も僕は一人なんですか?……」

すると電話の向こうで相手はこう言った。

「ああ!◯◯くん!大丈夫だよ!

 あのね、今日からそこの現場には

 いつもの人の変わりに

 別の人が行くことになったから!

 今度の人は若いし、

 仕事もできるから、

 ◯◯くんとは気が合うと思うよ!

 とりあえず一時間後に

 そこの現場につくから、

 仲良くしてね!」

僕は驚いた。

内容を理解するのに少し時間が必要だった。

それから少しして僕はこう言った。

「……あの……ガンジー、いや、

 ◯◯さんは……どうなっちゃったんですか?」

すると、向こうは少し間を置いた後、

ゆっくりとこう言った。

「ああ、◯◯さんね……。あの人はミスが多すぎるから、

 別の現場に行ってもらうことになったよ……。

 そっちの現場の人達からクレームがきてね……。

 もっと若くて、仕事の出来る人にしてくれってさ。

 足は別に問題なかったみたいだけどね……

 だから◯◯さんは今日から練馬の現場にいるよ」

…………それからどんな会話をしたかは覚えていない。

……………………………………………。

一時間ほどして現場に来た新しいガードマンは、

サーフィンが似合いそうな色黒の好青年だった。

彼は確かに仕事が出来た。

ユーモアもあり、

昼になる頃には、

現場の人達と笑いあうほどに打ちとけていた。

ガンジーさんや僕とはえらい違いだ。

……昼食を終えて、

僕と彼は日陰で休んでいた。

彼は僕を見てこう言った。

「◯◯くんはおとなしいね。無口なのかい?」

僕は「あまり、お喋りは得意じゃないんだ……」と答えた。

すると彼はジロジロと僕を見て、それからこう言った。

「なあ、ギャンブルはやるのかい?」

「……いや、やらない」

「女遊びとかはやるのかい?」

「……いや、やったことない」

「じゃあ、殺したい芸能人とかいる?」

「……いない」

すると彼はため息を吐き、

それから笑いながらこう言った。

「ねえ、◯◯くんは最近、どんなことに興味あるのかな?」

僕はしばらく考えて、それからこう答えた。

「……トビとか……」

すると彼は立ち上がった。

「何?トビ?トビだって?あの、空を飛んでいるトビかい?

 ははは!◯◯くんは変わってるね!

 はははははは!

 まあいいや!

 俺はとりあえず、煙草でも吸いに行ってくるよ!」

そう言い終えると、彼は笑いながら喫煙所へと歩き出した。

………………………。

僕は彼の残したゴミの分別を終え、

高すぎる夏の空を見ながら

ガンジーさんを想った。

もうすぐ、約束の期間が経つから、

僕はガードマンの仕事を終えることになる。

そうなれば僕は練馬のガンジーさんにあやまりに行くんだ。

きっとガンジーさんは

練馬でも相変わらず、

ミスをして怒られながらも、

笑顔を浮かべて誠実に働いているはずだ。

燃える日差しを受けながら、

愚痴一つ言わずに、

陰ながら誰かの力になっているはずなんだ。

きっと僕が練馬に行って、

「……今までごめんなさい。

 そして今までありがとうございました」

とか照れながら言っても、

あのガンジーさんのことだから、

いつもみたいに

子犬のような目で

優しく僕を見つめながら

「全然気にしてないよ。それよりこちらこそありがとね」

とか顔を近づけて言うに決まっている。

絶対にそうだ。

僕にはわかっているんだ。












 






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2008年07月12日

トビが飛ぶ

梅雨があけたのかどうかは知らないが、

今日の埼玉はめまいがするほどの暑さだった。

僕はなんとかガードマンの一日を終え、

帰宅しようとしていた。

すると背後から、

「ねえ、◯◯くん。少しだけ飲みに行こうよ」

と不意にガンジーさんに言われた。

僕は一瞬戸惑い、

振り返ってガンジーさんの方を見た。

すると、ガンジーさんは何とも言えない穏やかな笑顔を浮かべている。

しかも眼鏡の奥のその目はまるで子犬のように純粋だ………。

僕はしばらく考えて、

それから、こんな日に飲むビールはさぞ美味いだろうと思い、

「いいですよ」と答え、

ガンジーさんがいきつけだという近所の飲み屋に行くことにした。

店に行くまでの間、

ガンジーさんはずっと笑顔で喋っていた。

顔を近づけて喋るのは相変わらずだけど、

ガンジーさんが嬉しそうに喋るものだから、

僕はそんなに悪い気はしなかった。

やがて小さな居酒屋に入り、

ガンジーさんは

「ホッピーください!」

とカウンターに注文した。

僕がガンジーさんに

「ホッピーって何ですか?」

と訊くと、

ガンジーさんは

「あ、若い人は知らないか……。けっこうおいしいよ!」

と微笑んだ。

……………………………。

しばらく飲んだ後、

顔を真っ赤にしたガンジーさんは

僕にこんなことを話しだした。

「……僕は昔、画家になりたくて

 毎日絵を描いていたんだ。

 描くものは決まって、

 空を飛ぶトビの絵だったよ。

 トビは群もせずに自由に飛んでいるから、

 若かった頃の僕にはとてもカッコイイものに思えたんだ。

 僕は毎日、

 ご飯を食べるのも忘れてトビばかり描いていたよ……。

 そんな日々を送っていた頃、

 今の奥さんに出会ったんだ。

 ……やがて僕たちは結婚することなり、

 僕は画家の夢を諦めた……。

 絵で生活はできないからね……。

 僕は奥さんを愛していたし、

 絵に未練はもうなかったよ。

 結婚後、

 奥さんの実家は

 今まで続けてきた酒屋をつぶして、

 コンビニをはじめた。

 そして僕はその店を譲り受けて店長になった。

 向こうの両親からすれば、

 『この店をあげるから娘を幸せにしてくれ』

 ってところだったんだろうね。

 僕は一生懸命がんばったよ。

 なんとか店を繁盛させようと、

 とにかくがんばったよ。

 その甲斐もあって、店は少しずつ繁盛していったんだ。

 でもね……

 やっと生活が上向きになったその頃、

 店のすぐ近くに別のコンビニができたんだ。

 そのコンビニは僕のところとは違って、

 有名な系列のコンビニだったんだ……。

 お客さんはどんどんそっちに流れていったよ……。

 やがて僕たちの生活は苦しくなっていった。
 
 僕はなんとかお客さんを呼び戻そうとがんばったよ。

 だけどその頃、

 とどめを刺すように、

 もう一件、

 また別の有名な系列のコンビニが近くにできたんだ……。

 終わりだったよ……。

 僕は店をたたむことにしたんだ……。

 そりゃあ奥さんにはすごい怒られたよ。

 向こうの両親にもそれ以来、嫌われちゃったね……。

 でも僕はなんとか気持ちを入れ替えて、

 いろいろな会社の面接を受けたりしたよ。

 だけど見事に全部落ちてね……。

 そしてなんとか今は、

 ここの会社に拾ってもらって、

 ガードマンをしているというわけなんだ……」

ガンジーさんは顔を真っ赤にしたまま、

目を閉じていた。

僕はしばらく黙っていたが、

やがてガンジーさんにこう訊いてみた。

「ここの仕事、長いんですか?」

するとガンジーさんは、

「もう、長過ぎて訳がわからないくらいだよ……」

と言った。

それからガンジーさんは

ホッピー飲み、

さらにこんなことを話し続けた。

「……ねえ、◯◯くん。

 僕は最近、仕事中によくこんなことを思うんだよ……。

 もし、僕が絵を描くのをやめていなかったら、

 今頃はどんな人生を送っていたんだろう?ってね……。

 ……夏の日差しを受けながら、

 仕事の合間、

 ふと、見上げると、

 大きなトビが、

 美しいトビが、

 僕の遥か上を、

 無限の広大な空を、

 自由に飛びまわっているんだ……。

 僕はそんな時、

 空にゆっくりと手を伸ばしてみるんだ。

 でもね、

 やっぱり、

 そこには届かないんだよ……」

ガンジーさんはそこまで話し終えると、

不意にイビキをかきはじめた。

…………………………………。

せっかく、真剣に話を聞いていたのに……。

僕はため息を吐いた。

まったく、

こういうところがガンジーさんらしいよ…………。

僕はガンジーさんのホッピーを

ゆっくりと自分の口に運び、

それから油で汚れた居酒屋の天井を見つめ、

その向こうに

ガンジーさんの見た空をイメージしようとしてみた。

きっとそれは、

どこまでも広大で、

どこまでも透き通っていたはずなんだ。



 
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2008年07月08日

銀色のプレゼント

久しぶりの、

本当に久しぶりの、

休日が明日やってくる。

この一ヶ月間、

僕はずっと働きっぱなしだった。

友人の紹介で始めたそのガードマンのバイトは

決して簡単なものではなかったけど、

最近では少しサマになってきたかなって

自分では思っているんだ。

埼玉の大型家電量販店のうらで

荷物を運んでくるトラックを

通行人に気を配りながら誘導するのが

僕の仕事だ。

ここの仕事の最大の敵は

異常気象による暑さと、

なんと言っても、

先輩の「ガンジーさん」だ。

「ガンジーさん」は五十歳くらいで、

坊主頭に丸眼鏡で、

ガリガリで真っ黒で、

人の良い笑顔をいつも浮かべていて、

限りなくその姿はガンジーを連想させるから、

僕は心の中でガンジーさんって呼んでいるんだ。

……僕はガンジーさんが苦手だ。

ガンジーさんはいつも仕事でミスをするし、

いつも誰かに怒鳴られているし、

人が良いので損ばかりするし、

年上で先輩なのに頼りないし、

新人の僕がたまに憎まれ口を叩いても、

いつも寂しそうに微笑むだけなんだ。

なんだかとても痛々しい。

……今日もいつものように建物の影で

二人で昼飯を食べていた。

「いいねえ、若い人は仕事の覚えが早くて」

ガンジーさんは目を輝かせながら僕に言った。

僕はいつものように

「……ええ、まあ」と無愛想に答えた。

ガンジーさんは悪気はないのだろうけど、

顔を近づけて喋るから鬱陶しい。

僕はいつも急いで食事を終わらせ、

少し距離のある喫煙所へと向かう。

ガンジーさんは煙草を吸わないから、

喫煙所は一人になれる格好の場だ。

今日もいつものように急いで食事を終わらせ、

喫煙所に行こうとした。

すると、

「◯◯クンちょっと、待って」

そう言ってガンジーさんはポケットを探ると、

やがて小さな紙袋を取り出した。

それからカサカサの黒い手で僕にそれを渡し、

「開けてみて」

と微笑んだ。

なんだ?

不思議に思いながら紙袋を開けてみるとそこには、

なんと銀色の携帯用灰皿が入っていた。

「なんですか?これ」

僕が驚いてそう言うと、

ガンジーさんは頭をかきながらゆっくりとこう言った。

「これ……プレゼントするよ。

 だって、いつも喫煙所まで歩くのは大変でしょ?

 それにここで煙草を吸えればもっと話ができるから、

 もっと楽しいと思うし。

 ……プレゼントなんてあまりしないから、

 とても悩んだけど、

 気に入ってくれると嬉しいな……」

ガンジーさんはそう言うと、照れくさそうに微笑んだ。

僕は灰皿を持ったまま立ちつくしてしまった。

こんなお節介いらない……。

僕はそれから、

……ガンジーさん、煙草は喫煙所でしか吸えないから、

これを持っていても意味はないですよ……

とか言おうと思ったけど、

手のひらに乗った銀色の灰皿を見ているうちに、

なんだか若いデザインのそれを見ているうちに、

まあいいか、という気持ちになり、

やめることにした。

………やっぱり僕はガンジーさんが苦手だ。

だけどこれからは、昼休みの間は煙草を吸わず、

ガンジーさんと一緒にいようと思った。








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2008年06月05日

友人のたくわえ

夜に友人が僕の家に来た。

「ずっと家にいるのは良くないと思ってさ」

と友人は僕に紹介する仕事のための、

職務内容の書かれた紙を手に持っていた。

どうやらそれはガードマンの仕事らしい。

ガードマンだったら経験があるから、

大体どういうものか知っている。

比較的、

他人とのコミュニケーションを必要としないその仕事を、

友人はきっと僕に向いていると思ったのだろう。

確かに僕はコミュニケーション能力に欠けていた。

人の目を見るのはいまだに苦手だし、

何かを発言するのも非常に苦労する。

だけど僕は決して人嫌いなんかではない。

それどころか、

僕は人間をとにかく愛していた。

友人はそこの職場がどういったものかを

僕に説明し、

僕はそれをフンフンと聞いていた。

友人の優しさが痛いほど伝わってくる。

しかし、それからしばらくすると、

会話はやがて大人じみた方向に向かい、

政治がどうだとか、ガソリンがどうだとか、

そういう話題が中心になった。

ひとしきり大人のまねごとのような会話のあとは、

またいつものように、まぬけな話題で盛り上がった。

こちらの方が断然、僕ららしかった。

さんざん笑って、やがてお腹が空きだしたころ

「じゃあ、そろそろ帰るよ。

 仕事のこと、考えておいてくれよな」

と、友人は帰宅の準備をはじめた。

……………………………。

友人が帰ったあと、

僕が部屋を片付けていると、

一冊の小さなノートが出てきた。

なんだこれ?

見ると表紙には『たくわえ』と乱暴な字で書いてあった。

まあ、友人が忘れていったものとは思うが、

一体何のノートだろうか?

勝手に見ちゃ悪いかな?と思いつつ、

ノートを適当に開いてみるとそこには、

『1月15日、サカガミさんの髪型が似合っていた。

      電車で女性と目が合った。

      買った靴下の履き心地がいい。

      ワンダの新作がおいしいかった』

など、意味不明な文がたくさん並んでいた。

…………?

僕には変な友人が多いが、

彼もまた変なヤツであることは間違いなさそうだ。

……しばらくするとチャイムがなって、

「ごめん忘れ物しちゃったよ」

と友人があらわれた。

ノートを手に取って、

あった、あったと安心している友人に、

「それ何なの?」

と僕は聞いてみた。

すると友人は大きく息をはいて、

「これはうれしいことがあった時、

 それを記入しているノートだ」

と言った。

僕はいまいち意味がわからず、

「日記ってこと?」

と聞くと、

「いや違う」と言って、

友人はさらに話し続けた。

「これはどんな些細なことでも記録する

 オレの幸せ貯金通帳なんだ。

 これさえちゃんとしていれば、

 オレが不幸になることはない。

 なぜならつらいことがあっても、

 これを適当にめくってその時のことさえ思いだせば、

 たちまちオレは幸せになるから。

 書いていくうちにオレのノートはドンドン増えるだろう。

 オレはいつか、

 その貯まったたくさんのノートを眺めながら、

 オレは本当に幸せなヤツだと

 心から実感するんだ」

そう言って友人はノートをポケットにしまった。

なんと不思議な話だろうか。

僕は友人にこう言ってみた。

「しかし、タイトルが『たくわえ』というのは

 ずいぶんと大胆だねえ」

すると友人はこう言った。

「そりゃそうさ。幸せは過ぎていくものなんかじゃない。

 どんどんと、貯まっていくものなんだ」

………………………………。

友人が帰ったあと、

僕はさっきのことを思いだしていた。

そして、あやまらなくてはいけないなとも考えていた。

なぜなら、友人はさっき僕にノートの説明を終えたあと、

「ついでだから、ボールペンを貸してくれ」

と言って部屋の隅に向かい、

「絶対にのぞくなよ」と言って、

ノートに何かを書き始めた。

実はそのとき、

僕は部屋の隅で何かを書く友人の後ろから、

ノートに書いている文字を少し覗いてしまったのだ。

そこには、

「6月3日、親友の◯◯と遊んだ。楽しかった」

と僕のことが書いてあった………。

『たくわえ』に貢献できて光栄だよ親友。

これからもこんな僕でよかったら、

いくらでも力になるからね。


 

 













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2008年06月02日

魂、がんばれ

朝、目を覚ました時、

なぜか僕の心に

「ガッツソウル」という言葉が湧き出てきた。

ガッツソウル?

どこでそんな言葉を覚えたのだろう?

最近観た映画などで

主役が決めゼリフとして使ったのだろうか?

ガッツソウル。

全く思いだせない。

しばらくの間、

何処で目にしたのか思いだそうとしたが、

時間が経つにつれて、

その言葉のルーツなんかどうでもよくなり、

それよりもその言葉自体が

とても素晴しいもののように思えてきた。

ガッツソウル。

魂、がんばれ、みたいなことだろう。

実は最近の僕はいろいろなことに悩んでいた。

悩み過ぎて昨日など、

頭を洗っていたら髪の毛がごっそりと抜けた。

僕はシャワーを浴びながら、

大量の抜け毛のからまった両手を眺め、

わなわなと震えていたものだ。マジで。

しかし、もう安心だ。

なぜなら僕はガッツソウル。

心配なんてバカらしい。

なんだかこの言葉のおかげで

強くなったような気がするぜ。ガッツソウル。

そんなことを考えながら僕は一日を過ごしていた。

夕方になり、友人との約束のために外にでた。

今日は一緒に外食をすることになっている。

行き先は以前に一回だけ行ったことのある焼肉屋だ。

代々木で待ち合わせをして、

久しぶりだねえとか言いながら、

店の中に入ろうとした時、

なんとなく店の看板に目を向けてみるとそこには、

焼肉屋、ガッツソウルと書いてあった。








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2008年06月01日

赤い花の写真

以前に勤めていた会社の

送別会に行って来た。

僕と同期入社の女の子が、

5月いっぱいで辞めることになったのだ。

僕はその会社を辞めてもう半年ほど経つが、

いまだにこういう誘いがかかることが嬉しかった。

用事があったために、

少し遅れて指定された居酒屋に行ってみると、

そこには懐かしい顔ぶれがそろっていた。

しかし、ほとんどの人たちは

すでに酔っぱらい、

大騒ぎしていたので、

挨拶するのが精一杯の状況だった。

やっとの思いで自分の席を確保し、

一息ついていると、

「おう、元気にしているのか?」

と今回の主役の女の子が話しかけて来た。

酒のせいで顔は真っ赤で、

ビールを片手に、口にはスルメをくわえていた。

「うん。元気にしてるよ」

と僕が言うと、

女の子はウンウンと頷いているようだった。

男顔負けのいさましさだ。

だが、彼女は会社にいる頃も大体こんな感じだった。

同期の飲み会を企画していたのも彼女だったし、

いつもみんなを笑わせていたのも彼女だった。

だからとても人に好かれていた。

実を言えば、

僕は少し淡い恋心のような感情を、

この女の子に対して持っていた………。

懐かしい思い出をお互いに話したあと、

彼女は僕のグラスにビールを注ぎながら

「実はあんたにずっとお礼をしたかった」

と不意に言った。

僕が驚いて

「なんで?」

と言うと、女の子は話しはじめた。

「……私が仕事でミスして落ちこんでいた時、

 あんたは私に赤い花の写真をくれたよね?

 なぜかその時、

 それがすごい嬉しくて、

 私、あのあと、トイレでずっと泣いていたんだよ………」

確かにそういうことがあった。

いつも元気な彼女がめずらしく落ちこんでいるので、

僕はたまたま持っていた

現像したての写真を彼女にあげたのだ。

しかし、そのあとトイレで泣いていたとは知らなかった。

意外に女性らしい面もあるもんだ……。

「そうか。別にそんなこと気にしなくていいよ」

と僕が言うと

「まあ、そうだね」

と彼女は笑顔で言った。

それからやがて、誰かが彼女を呼んで、

彼女はビールグラスを持って向こう側の

にぎやかグループの方へ行ってしまった。

とり残された僕は、

近くにいる人と他愛ない会話をすることにした。

…………………………。

二次会があるという話だったが、

僕は一次会が終了した時点でこっそりと帰ることにした。

やっぱり僕にはああいう飲み会は向いていなかった。

おとなしい僕がいたって、

きっと誰も楽しくないんだ。

僕は一人でトボトボと夜の街を歩いていた。

このまますぐに家に帰ってもよかったのだが、

なんか寂しくて、

帰りたくないような気分だった。

しばらく歩いていると、

僕の携帯電話が鳴りはじめた。

見るとそれはさっきの彼女からだった。

「もしもし…」

と電話にでると彼女は大声で話しはじめた。

「なんで帰るんだよ!バカ!

 私の送別会だぞ!」

「ああ……ごめん」

僕は何と言っていいかわからず

とりあえずあやまった。すると、

「ごめんじゃないよ!」

と言って彼女はさらに続けた。

「もう!相変わらずだね!

 最後だから言うけどね………。

 …………あのね、私はあんたが好きだったんだよ!

 あんたのことが大好きだったの!

 でも、もう遅いからね!

 私はもう彼氏いるから!

 残念でした!ドンカン!バカ!」

それで電話は切れた。

僕は驚き、

それから、

うるさいこの酔っぱらいが、と思った。

……週末の夜の街は

とてもにぎやかだった。

僕は歩きながら、

彼女の姿を想像した。

楽しそうに、幸せそうに、

僕の隣を歩いている姿を。

けっこうお似合いだったかもしれないなと

僕は微笑んで、

それから家に帰ることにした。








 





 


posted by kodds at 20:08| Comment(9) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月27日

祖父のそば屋

田舎に住む祖父は

一人で小さなそば屋を営んでいる。

もう、けっこうな年齢だし、

最近では肩に加えて

腰までも悪くし、

家族たちをいつも心配させている。

いくら母や親戚が説得しても

祖父はそば屋を辞めようとしないのだ。

昨日の夜、僕の携帯に母から電話があった。

「………ねえ、あなたからもおジイちゃんに頼んで。

 私もいっぱい言ってるのよ。

 お金は心配ないし、

 週一回は顔を出すようにするから、

 これ以上無茶はしないでって。

 あなたはおジイちゃんに可愛がられていたから、

 あなたの言うことだったら、聞くかもしれないし……」

母の声はひどく疲れているようだった。

電話を切ったあと、

僕は祖父との昔の思い出を振り返ってみた。

小学校の運動会の時、

誰よりも大きな声で僕を応援してくれた。

僕は祖父に名前を呼ばれるたびに、

恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。

父が死んだ時、

遺体が火葬場で焼き終わるのを待つ間、

祖父は折り紙の鶴の折り方を

泣き止まない僕に教えてくれた。

右手の指だけをうまくつかって

折り紙を折るその精密な指使いに、

僕はもしかすると

みとれていたかもしれない。

祖父の左の指はあまり動かないのだ。

それは戦争で仲間を助けたときにそうなったらしい。

その他にも祖父は右足に銃弾が二つある。

………僕は煙草を三本吸って、

それから祖父の家に電話をしてみた。

十コール程して、祖父がもしもしと電話にでた。

「あ……◯◯だけど……元気?」

「おう!◯◯か?ワシは元気じゃ!どうした?小遣い欲しいのか?」

「いや、そうじゃなくて……みんな心配してるから……」

そこまで言うと、祖父はそば屋のことだと理解したらしく、

少し不機嫌な声をだした。

「お前もか!ワシには味方はおらんのか?」

僕は一瞬、言葉に詰まってしまったが、

精一杯気持ちを伝えようとした。

「みんなおジイちゃんが心配なんだよ……。

 元気で長生きしてほしいから、

 そう言ってるんだよ。

 僕もおジイちゃんに元気で長生きしてほしいし……」

しばらく祖父は黙っていた。しかし、突然笑いだすとこう言った。

「長生き?充分しとるじゃないか!

 ワシの仲間は戦争でいっぱい死んだ。

 だけどワシは生きてしまった。

 なぜか生き残ってしまった。

 お前のお父さんよりもワシは長く生きてしまった。

 これを長生きと言わんでどうするんじゃ?

 でも言っておくぞ!

 別にワシは早く死にたいわけじゃないぞ!

 ワシはもう開き直っててな、

 どうせなら、

 限界まで生きてやろうと思っとるんじゃ!

 死ぬギリギリまで生きるんじゃ!

 飯喰って、屁えこいて、寝るだけの生活送ったら、

 ワシより先に死んでいったやつらに合わせる顔がないし、

 そんなものを生きとるとは言わん!

 今、目の前にあることをがんばる。

 それ以外に生きるという行為はワシにはないんじゃ!」

ここまで断言されて、僕には返す言葉がなかった。

しばらくして、そんな僕の状況を悟ったのか、

祖父はこう続けた。

「まあ……でも気持ちは受け取っとく。

 ありがとうな。

 そんなに心配せんでも、

 もしもワシがボケたり、

 寝たきりになったりするようなことがあれば、

 お前に一杯世話させてやる。

 その時は頼むぞ。

 それにな、身体がこれ以上きつくなれば、

 その時はきっと自分からそば屋を閉店するわい!

 だってそりゃあ、なあ……

 痛いのは……………つらいからな……」

僕は祖父の銃弾を思い出した。

それから観念して、

仕方なく僕はこう言った。

「……わかったよ。お母さんにはそう言っておくよ。

 でもさ、仕事だけじゃなくてさ。

 趣味とか持つのもいいと思うよ」

僕がそう言い終えると

「趣味?あるぞ」

と祖父は言った。

「何なの?」

と僕が言うと祖父は大きな声でこう言った。

「生きることじゃ!」

…………………………。

電話を切ったあと、

僕はしばらく夜空を眺めていた。

それからふと、

明日からマラソンでもしようかなあ

とか思った。


 

 


posted by kodds at 19:27| Comment(21) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月26日

ハッピーテロリスト

最近、悪いヤツになろうかなと

真剣に考えている。

悪いヤツは異端児だ。

社会をうまく渡れそうだし、

悩みなんてなさそうだし、

なによりも女性にモテそうだ。

異端児。いいねえ。

でも、どうしたら悪いヤツになれるのだろう?

悩んだ結果、パチンコに行ってみた。

とりあえず適当な台に座り、

目の前にお金を入れる所があったので、

入れてみたら隣の台に玉が出てきた。

あせってその玉を自分の所に入れ直し、

赤面しながら早速プレイしてみた。

……………………………。

全く意味がわからなかった……。

イメージとも違うし。

周りにはおじちゃん達が何人かいたが、

一言も発さずに黙々とゲームに打ち込むその様は、

どうみてもワルとも異端児とも言えないものだった。

それから三千円ほど負けたあと、

家に帰ってじっくりと考えてみた。

………最近ではイレズミも珍しくないし、

電車の中で爪を切っているおじさんとかもいるし、

携帯電話で大声で話している若者も少なくないし、

国民から選ばれた代表であるはずなのに

おかしな人もいっぱいいる。

ということは…………

結局、今の時代の異端児とは、

前向きで誠実な人間のことではないだろうか?

そんな結論に辿り着いた。

前向きで誠実。なるほど。

それだったらパチンコよりも僕に向いてそうだ。

…………………………。

そういうわけで、

僕は明日から積極的に電車で席をゆずるぜ。

ゴミが落ちてたら拾うぜ。

徹底的に愛想をよくするぜ。

いろんなブログに誠実にコメントを残すぜ。

みんなで幸せになる方法をいくつも考えるぜ。

世界平和も願っちゃうんだ。

異端児だ。すごい。ハハハ。

おっと、お嬢さん。

きやすく僕に触るとヤケドしちゃうぜ。

なぜなら僕はテロリスト。

ポッケの中は

ハッピー爆弾でいっぱいさ。










posted by kodds at 18:57| Comment(11) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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