2008年06月05日

友人のたくわえ

夜に友人が僕の家に来た。

「ずっと家にいるのは良くないと思ってさ」

と友人は僕に紹介する仕事のための、

職務内容の書かれた紙を手に持っていた。

どうやらそれはガードマンの仕事らしい。

ガードマンだったら経験があるから、

大体どういうものか知っている。

比較的、

他人とのコミュニケーションを必要としないその仕事を、

友人はきっと僕に向いていると思ったのだろう。

確かに僕はコミュニケーション能力に欠けていた。

人の目を見るのはいまだに苦手だし、

何かを発言するのも非常に苦労する。

だけど僕は決して人嫌いなんかではない。

それどころか、

僕は人間をとにかく愛していた。

友人はそこの職場がどういったものかを

僕に説明し、

僕はそれをフンフンと聞いていた。

友人の優しさが痛いほど伝わってくる。

しかし、それからしばらくすると、

会話はやがて大人じみた方向に向かい、

政治がどうだとか、ガソリンがどうだとか、

そういう話題が中心になった。

ひとしきり大人のまねごとのような会話のあとは、

またいつものように、まぬけな話題で盛り上がった。

こちらの方が断然、僕ららしかった。

さんざん笑って、やがてお腹が空きだしたころ

「じゃあ、そろそろ帰るよ。

 仕事のこと、考えておいてくれよな」

と、友人は帰宅の準備をはじめた。

……………………………。

友人が帰ったあと、

僕が部屋を片付けていると、

一冊の小さなノートが出てきた。

なんだこれ?

見ると表紙には『たくわえ』と乱暴な字で書いてあった。

まあ、友人が忘れていったものとは思うが、

一体何のノートだろうか?

勝手に見ちゃ悪いかな?と思いつつ、

ノートを適当に開いてみるとそこには、

『1月15日、サカガミさんの髪型が似合っていた。

      電車で女性と目が合った。

      買った靴下の履き心地がいい。

      ワンダの新作がおいしいかった』

など、意味不明な文がたくさん並んでいた。

…………?

僕には変な友人が多いが、

彼もまた変なヤツであることは間違いなさそうだ。

……しばらくするとチャイムがなって、

「ごめん忘れ物しちゃったよ」

と友人があらわれた。

ノートを手に取って、

あった、あったと安心している友人に、

「それ何なの?」

と僕は聞いてみた。

すると友人は大きく息をはいて、

「これはうれしいことがあった時、

 それを記入しているノートだ」

と言った。

僕はいまいち意味がわからず、

「日記ってこと?」

と聞くと、

「いや違う」と言って、

友人はさらに話し続けた。

「これはどんな些細なことでも記録する

 オレの幸せ貯金通帳なんだ。

 これさえちゃんとしていれば、

 オレが不幸になることはない。

 なぜならつらいことがあっても、

 これを適当にめくってその時のことさえ思いだせば、

 たちまちオレは幸せになるから。

 書いていくうちにオレのノートはドンドン増えるだろう。

 オレはいつか、

 その貯まったたくさんのノートを眺めながら、

 オレは本当に幸せなヤツだと

 心から実感するんだ」

そう言って友人はノートをポケットにしまった。

なんと不思議な話だろうか。

僕は友人にこう言ってみた。

「しかし、タイトルが『たくわえ』というのは

 ずいぶんと大胆だねえ」

すると友人はこう言った。

「そりゃそうさ。幸せは過ぎていくものなんかじゃない。

 どんどんと、貯まっていくものなんだ」

………………………………。

友人が帰ったあと、

僕はさっきのことを思いだしていた。

そして、あやまらなくてはいけないなとも考えていた。

なぜなら、友人はさっき僕にノートの説明を終えたあと、

「ついでだから、ボールペンを貸してくれ」

と言って部屋の隅に向かい、

「絶対にのぞくなよ」と言って、

ノートに何かを書き始めた。

実はそのとき、

僕は部屋の隅で何かを書く友人の後ろから、

ノートに書いている文字を少し覗いてしまったのだ。

そこには、

「6月3日、親友の◯◯と遊んだ。楽しかった」

と僕のことが書いてあった………。

『たくわえ』に貢献できて光栄だよ親友。

これからもこんな僕でよかったら、

いくらでも力になるからね。


 

 













posted by kodds at 00:11| Comment(22) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月02日

魂、がんばれ

朝、目を覚ました時、

なぜか僕の心に

「ガッツソウル」という言葉が湧き出てきた。

ガッツソウル?

どこでそんな言葉を覚えたのだろう?

最近観た映画などで

主役が決めゼリフとして使ったのだろうか?

ガッツソウル。

全く思いだせない。

しばらくの間、

何処で目にしたのか思いだそうとしたが、

時間が経つにつれて、

その言葉のルーツなんかどうでもよくなり、

それよりもその言葉自体が

とても素晴しいもののように思えてきた。

ガッツソウル。

魂、がんばれ、みたいなことだろう。

実は最近の僕はいろいろなことに悩んでいた。

悩み過ぎて昨日など、

頭を洗っていたら髪の毛がごっそりと抜けた。

僕はシャワーを浴びながら、

大量の抜け毛のからまった両手を眺め、

わなわなと震えていたものだ。マジで。

しかし、もう安心だ。

なぜなら僕はガッツソウル。

心配なんてバカらしい。

なんだかこの言葉のおかげで

強くなったような気がするぜ。ガッツソウル。

そんなことを考えながら僕は一日を過ごしていた。

夕方になり、友人との約束のために外にでた。

今日は一緒に外食をすることになっている。

行き先は以前に一回だけ行ったことのある焼肉屋だ。

代々木で待ち合わせをして、

久しぶりだねえとか言いながら、

店の中に入ろうとした時、

なんとなく店の看板に目を向けてみるとそこには、

焼肉屋、ガッツソウルと書いてあった。








posted by kodds at 20:02| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月01日

赤い花の写真

以前に勤めていた会社の

送別会に行って来た。

僕と同期入社の女の子が、

5月いっぱいで辞めることになったのだ。

僕はその会社を辞めてもう半年ほど経つが、

いまだにこういう誘いがかかることが嬉しかった。

用事があったために、

少し遅れて指定された居酒屋に行ってみると、

そこには懐かしい顔ぶれがそろっていた。

しかし、ほとんどの人たちは

すでに酔っぱらい、

大騒ぎしていたので、

挨拶するのが精一杯の状況だった。

やっとの思いで自分の席を確保し、

一息ついていると、

「おう、元気にしているのか?」

と今回の主役の女の子が話しかけて来た。

酒のせいで顔は真っ赤で、

ビールを片手に、口にはスルメをくわえていた。

「うん。元気にしてるよ」

と僕が言うと、

女の子はウンウンと頷いているようだった。

男顔負けのいさましさだ。

だが、彼女は会社にいる頃も大体こんな感じだった。

同期の飲み会を企画していたのも彼女だったし、

いつもみんなを笑わせていたのも彼女だった。

だからとても人に好かれていた。

実を言えば、

僕は少し淡い恋心のような感情を、

この女の子に対して持っていた………。

懐かしい思い出をお互いに話したあと、

彼女は僕のグラスにビールを注ぎながら

「実はあんたにずっとお礼をしたかった」

と不意に言った。

僕が驚いて

「なんで?」

と言うと、女の子は話しはじめた。

「……私が仕事でミスして落ちこんでいた時、

 あんたは私に赤い花の写真をくれたよね?

 なぜかその時、

 それがすごい嬉しくて、

 私、あのあと、トイレでずっと泣いていたんだよ………」

確かにそういうことがあった。

いつも元気な彼女がめずらしく落ちこんでいるので、

僕はたまたま持っていた

現像したての写真を彼女にあげたのだ。

しかし、そのあとトイレで泣いていたとは知らなかった。

意外に女性らしい面もあるもんだ……。

「そうか。別にそんなこと気にしなくていいよ」

と僕が言うと

「まあ、そうだね」

と彼女は笑顔で言った。

それからやがて、誰かが彼女を呼んで、

彼女はビールグラスを持って向こう側の

にぎやかグループの方へ行ってしまった。

とり残された僕は、

近くにいる人と他愛ない会話をすることにした。

…………………………。

二次会があるという話だったが、

僕は一次会が終了した時点でこっそりと帰ることにした。

やっぱり僕にはああいう飲み会は向いていなかった。

おとなしい僕がいたって、

きっと誰も楽しくないんだ。

僕は一人でトボトボと夜の街を歩いていた。

このまますぐに家に帰ってもよかったのだが、

なんか寂しくて、

帰りたくないような気分だった。

しばらく歩いていると、

僕の携帯電話が鳴りはじめた。

見るとそれはさっきの彼女からだった。

「もしもし…」

と電話にでると彼女は大声で話しはじめた。

「なんで帰るんだよ!バカ!

 私の送別会だぞ!」

「ああ……ごめん」

僕は何と言っていいかわからず

とりあえずあやまった。すると、

「ごめんじゃないよ!」

と言って彼女はさらに続けた。

「もう!相変わらずだね!

 最後だから言うけどね………。

 …………あのね、私はあんたが好きだったんだよ!

 あんたのことが大好きだったの!

 でも、もう遅いからね!

 私はもう彼氏いるから!

 残念でした!ドンカン!バカ!」

それで電話は切れた。

僕は驚き、

それから、

うるさいこの酔っぱらいが、と思った。

……週末の夜の街は

とてもにぎやかだった。

僕は歩きながら、

彼女の姿を想像した。

楽しそうに、幸せそうに、

僕の隣を歩いている姿を。

けっこうお似合いだったかもしれないなと

僕は微笑んで、

それから家に帰ることにした。








 





 


posted by kodds at 20:08| Comment(9) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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