2008年09月14日

波のひとつ

新宿で用事を終え、

帰るための電車に乗って揺られていると、

暖かい夕暮れの日差しのせいもあり、

ウトウトと眠ってしまった。

目を開けば見慣れない景色が車窓を過ぎていくから、

どうやら僕は乗り過ごしてしまったらしい。

だけど僕はあわてもせずに、

このままどこまでも行ってみようなんて思ったりした。

最近の僕はとても疲れていた。

もともと心はそんなに強いほうではないけれど、

それよりも色々なことに疲れてしまったんだ。

僕が死んだとしても

それはとても小さいことだ、とか

近頃はよく考える………。

僕はまた目を閉じて、

電車に揺られながら、

何もかもがどうでもいいと思った。

………………………………。

終点の八王子に電車が到着したとき、

僕はなぜか海が見たいと思った。

なぜ海なのかはわからない。

でも、どこかに行くとすれば

それはやはり海だった。

僕は財布の中身を確認して、

それからフと頭に浮かんだ『茅ヶ崎』を目指すことにした。

『茅ヶ崎』………。

僕は何を期待しているんだろう?

………………………………。

何度か電車を乗り換え、

茅ヶ崎に着くころには

辺りはすっかり暗くなっていた。

改札を抜けると

気のせいか少し潮風の匂いがした。

海が近い、と思った。

電灯の灯る正面の真っ直ぐな道路を

僕は道沿いに歩くことにした。

落ち着こうと思ってタバコに火を点けてみても、

意志に反して僕の足は自然と速度を増した。

もうすぐ海だ。

どうやら僕は少しだけ興奮しているらしい。

だけど頭の片隅でこうも思った。

………海に行って何がある?と。

もし仮にそこに何かがあったとしても、

僕の毎日は何一つ変わらないだろう。

きっと相変わらずだ。

………そんなことはわかっている。

だけど意志に反して、

僕の身体は海を見たがっていた。

海でなければ駄目だった。

………………………………。

ところどころに汗をかき、

息が切れてきたころ、

道は行き止まりになった。

耳を澄ませば、

柵の向こうから波の音が聴こえてくる。

僕はゴクリと喉を鳴らして、

それからゆっくりと柵をよけ、

向こう側へと歩いた。

………そして、

やがて僕の目には広大な黒が広がった。

………海だ。

夜の海は激しい黒いうねりだった。

遠くを見ても真っ暗なために水平線が見えず、

空と海を隔てるものがそこにはなかった。

近くに目を落とせば波がしぶきをあげるから、

僕はこの広大な黒を海だと認識できるのだった。

しばらく、

僕はそこに立ちつくしていた。

その間、絶えず波は砂浜を打ち続けた。

力強く、躍動的に。

瞬間に生まれ、

そして瞬間に消えるその波は、

よく見れば同じ形のものなど一つもなく、

そのどれもがわずかだが個性を持ち、

どれもが素晴しい音色で砂浜を打った………。

それからどれくらいそこに立っていただろうか?

僕はこの景色を見ながら

フとこんなことを思った………。

僕の存在は

きっとこの波の一つのようなものだろう、と。

存在したことさえ疑わしいほどの瞬間の運動。

少し時がたてば誰の記憶にも残らないほどのわずかな個性。

きっと僕はそんなものだ。

だけどそれでも………

波は素晴しい。

波は美しい。

そのことが僕に勇気を与えるのだった………。

身体の熱がおさまり、

風が少しだけ肌寒くなってきた。

もう秋なんだ。

夏よりも僕に向いているはずの季節がやってきた。

きっと素晴しい日々が僕を待っているはずだ………

なんてね………。

さてと、

帰ろうかな。








































posted by kodds at 22:14| Comment(10) | TrackBack(5) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
http://www.1blogrank.com/toplist/in.cgi?id=skys

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。