2008年05月27日

祖父のそば屋

田舎に住む祖父は

一人で小さなそば屋を営んでいる。

もう、けっこうな年齢だし、

最近では肩に加えて

腰までも悪くし、

家族たちをいつも心配させている。

いくら母や親戚が説得しても

祖父はそば屋を辞めようとしないのだ。

昨日の夜、僕の携帯に母から電話があった。

「………ねえ、あなたからもおジイちゃんに頼んで。

 私もいっぱい言ってるのよ。

 お金は心配ないし、

 週一回は顔を出すようにするから、

 これ以上無茶はしないでって。

 あなたはおジイちゃんに可愛がられていたから、

 あなたの言うことだったら、聞くかもしれないし……」

母の声はひどく疲れているようだった。

電話を切ったあと、

僕は祖父との昔の思い出を振り返ってみた。

小学校の運動会の時、

誰よりも大きな声で僕を応援してくれた。

僕は祖父に名前を呼ばれるたびに、

恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。

父が死んだ時、

遺体が火葬場で焼き終わるのを待つ間、

祖父は折り紙の鶴の折り方を

泣き止まない僕に教えてくれた。

右手の指だけをうまくつかって

折り紙を折るその精密な指使いに、

僕はもしかすると

みとれていたかもしれない。

祖父の左の指はあまり動かないのだ。

それは戦争で仲間を助けたときにそうなったらしい。

その他にも祖父は右足に銃弾が二つある。

………僕は煙草を三本吸って、

それから祖父の家に電話をしてみた。

十コール程して、祖父がもしもしと電話にでた。

「あ……◯◯だけど……元気?」

「おう!◯◯か?ワシは元気じゃ!どうした?小遣い欲しいのか?」

「いや、そうじゃなくて……みんな心配してるから……」

そこまで言うと、祖父はそば屋のことだと理解したらしく、

少し不機嫌な声をだした。

「お前もか!ワシには味方はおらんのか?」

僕は一瞬、言葉に詰まってしまったが、

精一杯気持ちを伝えようとした。

「みんなおジイちゃんが心配なんだよ……。

 元気で長生きしてほしいから、

 そう言ってるんだよ。

 僕もおジイちゃんに元気で長生きしてほしいし……」

しばらく祖父は黙っていた。しかし、突然笑いだすとこう言った。

「長生き?充分しとるじゃないか!

 ワシの仲間は戦争でいっぱい死んだ。

 だけどワシは生きてしまった。

 なぜか生き残ってしまった。

 お前のお父さんよりもワシは長く生きてしまった。

 これを長生きと言わんでどうするんじゃ?

 でも言っておくぞ!

 別にワシは早く死にたいわけじゃないぞ!

 ワシはもう開き直っててな、

 どうせなら、

 限界まで生きてやろうと思っとるんじゃ!

 死ぬギリギリまで生きるんじゃ!

 飯喰って、屁えこいて、寝るだけの生活送ったら、

 ワシより先に死んでいったやつらに合わせる顔がないし、

 そんなものを生きとるとは言わん!

 今、目の前にあることをがんばる。

 それ以外に生きるという行為はワシにはないんじゃ!」

ここまで断言されて、僕には返す言葉がなかった。

しばらくして、そんな僕の状況を悟ったのか、

祖父はこう続けた。

「まあ……でも気持ちは受け取っとく。

 ありがとうな。

 そんなに心配せんでも、

 もしもワシがボケたり、

 寝たきりになったりするようなことがあれば、

 お前に一杯世話させてやる。

 その時は頼むぞ。

 それにな、身体がこれ以上きつくなれば、

 その時はきっと自分からそば屋を閉店するわい!

 だってそりゃあ、なあ……

 痛いのは……………つらいからな……」

僕は祖父の銃弾を思い出した。

それから観念して、

仕方なく僕はこう言った。

「……わかったよ。お母さんにはそう言っておくよ。

 でもさ、仕事だけじゃなくてさ。

 趣味とか持つのもいいと思うよ」

僕がそう言い終えると

「趣味?あるぞ」

と祖父は言った。

「何なの?」

と僕が言うと祖父は大きな声でこう言った。

「生きることじゃ!」

…………………………。

電話を切ったあと、

僕はしばらく夜空を眺めていた。

それからふと、

明日からマラソンでもしようかなあ

とか思った。


 

 


posted by kodds at 19:27| Comment(21) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
一番乗りですかw

人の、生きる意味って自分にしかわからなくて他人が理解できないことは多いと思います。

この、おじいちゃんの趣味を自分の趣味にしたいですね

今日 一日を精一杯生きる

今日の自分に負けないように生きる


良いですね

次も楽しみにしています
Posted by しーいんぐらいふ at 2008年05月27日 20:24
なんて!素敵なおじいちゃん☆なんでしょう!!!
『kodds'sおじいちゃ〜ん!お蕎麦屋さん頑張って下さいね〜!!!』って、エールを送ります☆

戦争でのご経験が深遠な知恵となって、生きることの本質を教えて下さってますね。

koddsさんの素敵な感性も、この素晴らしいおじいちゃんの存在を知って、益々納得!!!です。

おじいちゃんを大切にして下さいね。
私は生まれた時には祖父が二人とも他界しておりました。。。
素敵な思い出も大切な宝物☆ですね。
Posted by 風光 at 2008年05月27日 20:55
周りが心配する気持ちも分かるけど
おそば屋さんはやらせておいてあげたいですね
きっと 生き甲斐なんだと思うし
お蕎麦やさんやってる方が イキイキだと思うよ
生きることが趣味って 深い言葉なのかもねb

ぽちん
Posted by ash at 2008年05月27日 21:30
趣味を「生きることじゃ!」と言い切ったおじいさん、かっこいい!
全てがそこに集約されているように思います。
活き活きと生きたいですね!
Posted by もりかつ at 2008年05月27日 21:57
おじいちゃん、カッコイイです。
私も生きる事を楽しみに、人生を楽しみながら生きて行きたいなぁって思いました。
Posted by ともっち at 2008年05月28日 02:03
精一杯生きるというのをまさしく実践しているおじいさんですね。
趣味を生きることと言い切れる人はそうはいません。
Posted by トグサ at 2008年05月28日 03:17
素敵なお話し
凄い語彙力、文書力です。
脱帽致しました。

mixiから訪問させて頂きました。 合掌
Posted by おれんじ at 2008年05月28日 07:43
mixi足跡第1号から来ましたw

なんか亡くなった祖父をふと思い出したり
してみました
文章読む限り全然似てないのになんでだろ?
なぜか懐かしい気がしました
Posted by ふー at 2008年05月28日 10:06
おじいさんのハードボイルドっぷりに

敬服いたします。

生きることが趣味。

素晴らしい!

歳を取るのもいいものですな。
Posted by 東京ハードボイルド at 2008年05月28日 11:01
やっぱり良いですよねー☆
誰かこの才能に気付いて=3

難し過ぎる言葉の小説も多い中、文章の苦手なわたしにも理解できる…
だけど、決して粗末じゃないし、安っぽくない☆

何か風景や画が浮かびます☆
自分の事のように、しんみりしてしまうのは何故でしょう…

Posted by sALa at 2008年05月28日 15:29
なんだか、読んでいて涙が出ちゃいました…。
生きることが趣味。ステキですね。
おじいさまの体のことは心配かもしれないけど、
是非おそば屋さん続けさせてあげてほしいです。
Posted by グータラ at 2008年05月29日 01:17
はじめまして!
日記ね、
前ページ前ページと
読み続けているうちに
文字がにじんで読めなく
なっちゃったんで
また改めます〜。
プロフィールをさがしたんだけど・・
とっても繊細な文章ばかりで
感受性の強い方なのだな〜って。
あなた像の空想が
宇宙をさまよっています。
又、あそびにきますね!
早速、お気に入りに登録しました。
心がズキンズキンしています。
不思議な感覚です




Posted by さくら at 2008年05月29日 19:47
初めまして^^
mixiの足跡帳に書き込みがあったので
お返しに来ました(´▽`*)

おじいさん、素晴らしいですね
僕はおじいちゃんはちっちゃい頃に
亡くなってるんで覚えてはないですけど
とても可愛がられたみたいです

生きるという事が趣味
最高にいいですね

生きるという事はカッコイイですw

「生きるということに命をかけてみたい」

僕の大好きなバンドの歌詞のフレーズです
命のある限りずっとずっと生き抜いて
やりましょう(≧∇≦)b
Posted by あさくら at 2008年05月29日 22:09
いい話ですね!!

信念を持って生きていられるって尊敬に値すると思います。

生きることが趣味・・いい言葉だと思います!

素敵で粋なおじいさんだと思います!!
Posted by la+ at 2008年05月29日 22:40
こんばんは

生きる事に前向きな方の言葉には説得力がありますね。
当方は10年間自宅で介護していた祖母を昨年看取りましたが、お爺様には手先を使って頭を使ってお蕎麦を打つ事が逆に健康に繋がっているのかもしれませんね。
腰や肩の心配はお有りでしょうが、生き甲斐にもなっていらっしゃるようで何もいえなくなる気持ちがよく分かります。
もどかしくも思われるのでしょうが、素敵な生き様のお爺様を大事にして差し上げて下さい。
Posted by 江戸っ子若女将 at 2008年05月30日 05:11
生きる事が趣味とは中々達観した台詞だな。
でも何故自分は明日からマラソンでもしようかと思ったんだ?。

自分も生きることを趣味として、
少しでも長生きするために身体を大切にしようと言う事なのか?。
その辺りの気持ちの変化が今一鮮明に見えなかった。

しかし味の在る文章を書くよね。
俺的にはこっづの中ではユーモア路線が好きなんだが、
こういうのも悪くない。
Posted by 孤高の安息 at 2008年05月30日 07:49
mixiから来ました(^^)
とっても、素敵なおじいさんですね。
うちのおじいちゃんは、前立腺癌と闘いながら元気に(?)生きてます。

生きてることが趣味・・・
歳を重ねた人だけが言える言葉ですね。
Posted by くみっち at 2008年05月30日 11:01
mixiから来ました
爺ちゃんかっこいいよ爺ちゃん

そろそろ俺の親父も爺ちゃんにしてあげなきゃ・・・(苦笑
Posted by まさぼ at 2008年05月30日 19:13
mixi足跡より


久々に良い日記を読ませていただきました

いたんですね、ここにも勇者の家系が
Posted by みぃちゅ at 2008年05月31日 23:35
mixiの私の足跡帳にメッセージを残していただいのでここまで来ました。
おじいさんの気持ち分かるな〜!
「気持ちだけは受け取っておく」
かっこよくて、思いやるのある返事…。長生きなんかより大好きな事やってる時間の方が大切なんでしょうね(^^)。
Posted by ミルク at 2008年06月01日 01:16

腰が痛いのは辛いものです。
私も14年間悩まされました。

私が考案した腰痛解消法をお試しください。
現在、日本で一番多く実践されるようになりました。

【3分腰痛解消法】で、検索すると見つかります。
腰をお大事に。
Posted by 腰痛アドバイザー at 2008年06月13日 16:41
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